タクシー業界の長い歴史の中で今は大きな変革期にあり、新たにうまれかわるフェーズ

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ドライバーの経験と勘、各社が蓄積してきた情報がコアだった

ここ10年は過去をさかのぼってもタクシー業界が劇的に変化した時代

日本交通川鍋様

―― タクシーの手配から予約、支払いまでをひとつのアプリで完結できる「JapanTaxi」を作ろうとされた経緯、きっかけなどを教えて下さい。

川鍋 一朗氏(以下、川鍋氏):2021年現在で、国内のタクシー業界は109年の歴史がありますが、そのうち100年はタクシーとドライバーの経験と勘、そこに無線があるくらいで圧倒的に属人化していた業界でした。ドライバーの頭の中にあるルートを一日走り続けて、一晩でいくらというかたちです。おしゃれに言いかければオーガニックマッチングという状態ですね。そこで各社が培ってきたデータを元にした統計データとリアルタイムの情報を無線で伝えていました。相当難しいマッチングをランダムで行っていたんです。

―― 100年という長い歴史と経験。歴史がある分、そこで働く人や仕事の仕方も重要な役割を担っていたのですね。そんな中、御社はいち早くタクシー業界にアプリを導入してきましたが、なぜアプリへ取り組み出したのでしょうか。

川鍋氏: 2011年に日本初のタクシー配車アプリ「日本交通タクシー配車」をリリースしましたが、アプリの可能性を感じたのは2013年頃。私がシリコンバレーにいた時なのですが、新しいアイデアはあるものの、やはりその実現の難しさは感じていました。変革というか。オペレーション中心のタクシー業界の文化、伝統、技術、給料体系、人材などそちらでは通用しないんですよね。

そんな業界を徐々に変えていったわけですが、その器が「JapanTaxi」でした。2015年に 「JapanTaxi」 をはじめた当初は5、6人からのスタート。文化の違うIT畑の人間とドライバーを中心とした現場の人たちの世界観のすり合わせ、文化の違いを認め合う風土にするにはやはり結果を見せつける必要がありました。

結果、配車件数が増えたという実績を提示することでやっと、重い腰があがっていったかたちです。そこまでに3年は費やしました。

アプリを浸透させるには現場への理解とわかりやすい成果が必要だった

BizteX株式会社嶋田氏

――オペレーショナルエクセレンスが大事なタクシー業界の文化、人材。一方で、アプリを開発、活用するエンジニア中心のIT業界はテクノロジードリブンの文化、人材であり、両者の隔たりはとても大きかったと認識しました。実際の社内では、IT業界の人にすり寄ってもらったのか、現場のドライバーの方に効果を理解してもらったのかどちらでしょうか。

川鍋氏: どちらかが一方的にというより、緩衝地帯を作って少しずつというイメージでしょうか。両方の立場、現状を理解していないとうまく進まないと思っていました。

IT化を進める側が現場へのリスペクトが足りないと浸透しない。逆にドライバーほかオペレーション側にはアジャイルという考え方をしっかりと理解してもらわないと真の効果が発揮できない。そこでお互いが認め合うにはわかりやすく成果を出す必要がありましたね。

――文化の違いを認識し、リスペクトと持つわけですね。相互に認め合う具体的な成果とはどんなものでしょうか?

川鍋氏:まずは「JapanTaxi」のアプリ1,000万ダウンロードという目に見える数字ですよね。その次に利益です。世の中に認められていろいろと賞をいただいたり。ただし、賞とかピッチコンテストばかりでいつまでたっても黒字化しないのもよくない。そのあたりは難しいですね。

お互いに遠慮なくぶつかり合った末に、予定調和で作らされたものではなくて自分たちで掴みとったものがないと本当のエンジンはかからない、というのを今に至るまで実感しました。

Uberという黒船、コロナという出来事が旧態依然としていたタクシー業界に変革をもたらした

「俺、そういうのわからないから」では済まない時代を迎えた

日本交通川鍋様

―― 御社では、既にアプリの開発、提供を始め組織の変革にも取り組んでいましたが、2014年に日本にUberの参入がありました。これによる業界や社内への影響はどのようなものでしたでしょうか?

川鍋氏:IT化を進める側とオペレーション側にとって共通する外敵ができたという点が大きかったですね。内側のマインドセットよりも外圧のほうが変革を進めるうえでは効果的でした。

―― 外敵、外圧が内部を多く変える要素となる。そういった点ではタクシー業界において、コロナの影響も大きかったでしょうか。各業界、オンライン化、リモート化が一気に進んだ印象があります。

川鍋氏: そうですね。たとえばタクシードライバーがアプリ経由でお客様から来たオーダーへの対応率はコロナ前で6割程度。当時は高齢のドライバーなどのなかに「俺はこういうのよくわからないから」と無視していた方もいました。アプリから入るオーダーよりも流しで道路沿いにいる目の前のお客様に対応していたんです。

それがコロナによりお客様の総数が減ったこと、そしてアプリを活用する若年層のお客様が増えたことでドライバーが「生きるために」対応するようになりましたね。

これからキャッシュレス決済の強化や全車へのアプリ端末の搭載が進む

―― そうはいっても、色んな業界でも変わろうとチャレンジするもうまくいかない企業は多いです。川鍋さんが業界を変えようと決意し、推し進めていった原動力はどこにあるのでしょうか。ご自身の想いの変遷もあると思うので合わせて聞かせてください。

川鍋氏: ほか雑誌などではサクサク進めていったように書かれていますが、私自身アプリの可能性を信じきれず、進めるのに時間がかかったと思っています。

2011年にアプリをはじめて、2015年に「JapanTaxi」にしたわけですが、それまでの4年間はアプリの価値を信じきれなかったですね。2011、2012年はシリコンバレーショックもありましたけど、その後、Uberが日本に上陸して自分としては確信したんですよね。このアプリは間違いないと。4年かけてやっと腹落ちしました。それが2013年2月ですね。「JapanTaxi」にしたのは2015年の8月ですから、そこまで約2年半かかってますね。

テクノロジー領域をはじめると莫大なお金がかかりますから、本業がある程度しっかりしていないとならない。本業の業績が悪ければ、新規事業ははじめられません。「DXをやりたいのなら、まず本業を安定させる」これは逆説的であるとわかっているのですが、安定したキャッシュフローのうえではじめるべきです。安定したキャッシュフローがあるうえで、営業利益の10%から20%を投資する。成果を見ないくらいの気持ちではじめないと難しいですね。

「去年はわからなかったけど今年はわかったよ」と言ってくれる方が世の中では味方になるので、タイミングに関しても重要です。早すぎてもだめで、その方向に向かって兵糧を大事にしながら、時代が背中をおしてくれるのを待つしかないですね。

自動運転、AIの活用によりドライバーや乗客のタクシーに対する認識が変わる

タクシー業界こそ、IT化が進むことで新しいサービスが生まれやすい

日本交通川鍋様とクラウドRPAとiPaaSを開発するBizteX嶋田氏による代表対談。

――私自身もタクシーに乗った時に、タクシー広告を見たり、スマホで決済したりとかなり便利になってきた印象です。キャッシュレス決済の強化やタクシー広告などで乗っている側への体験も変わり、DX化が相当進んだと思っていますが、今後について教えていただけますか。

川鍋氏: タクシーという文脈で言えば相当DX化は進んだと思います。実際に収益化もできています。今後はこれに加えて、タクシーで人だけでなくものを運ぶという可能性も見えています。それこそIT化を進めることで、レストランの食事をタクシーが届けることもあるかもしれません。

DXが進んだことでオペレーションの観点でもやりたいと思っていたことがはるかに簡単に、はるかに安くできるようになった。そういう意味では本当の意味で産業のDXはできていると思います。

――これから5Gになって、無線通信の通信速度や通信容量も上がり、レイテンシーも少なくなり、それに対応したデバイスも登場する時代がきます。タクシー業界にも、さらに新しいサービスの可能性の幅が広がっていきますね。

サービスの提供という側面だけでなく、情報を収集することでその副産物も得られると思っています。たとえばタクシーのトライブレコーダーの情報を使えば、一時停止の標識や制限速度などを地図データよりも早く正確にデータベースとして蓄積できるんです。つまり自動運転の可能性もでてきたわけですよね。

ここまで相当お金を使い、大変な思いもしてきましたが、いろんな部分が相互作用してきてよい循環を生み出しつつあります。

日本交通川鍋様とクラウドRPAとiPaaSを開発するBizteX嶋田氏による代表対談

―― この先5年、もしくは10年後、タクシー業界はどのような状態になっていると思いますか。

まず、ドライバーの平均年齢が若くなると思います。衝突防止ブレーキであったりドライブレコーダであったり、AIが当たり前の世界となり、近い未来には自動運転も本格的に運用されはじめるのではないでしょうか。今後のタクシー業界は、サービスに対するイメージが若手を中心に素敵なものになっていくか、「タクシー」ではない新しい名前に代わるのではないかと思っています。(終)

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